山下佳恵詩集『あなたへ』


 課題


悲しい事があったの
と言って 下を向いてしまったあなたに
どうしたの?とは聞けない
暫く沈黙した後に
この間 すごい雨が降った日にねって
話し始めた半分泣きそうな顔は
一人で泣いていたんだと思わずにはいられない
近所の人なんだけど
一人で住んでいて糖尿病を患っている人が死んじゃったんだ
私は仲が良かったくせに知らなくて
近くの人が少したまった新聞をみて
警察に通報してわかったらしいんだけど
胸をかきむしって死んでいたんだよ
電話をかけることも出来ずにね
私は やっぱり あのとき
おせっかいって言われてもいいから
電話は下に置いておきなさいって
言えばよかった
都会の片隅の葬式は 本当に淋しかった
たった壁一つ隔てたお隣さんは
何キロも離れた家のようだった  と
自分を責めて 涙目になっている貴方に
貴方のその涙が その人に届くことを願う
話し相手がいて幸せだったと思いたい

その老人の死は新聞にも載らない
小さな小さな事件ですが
この国の
大きな大きな課題です


「 課題 」( 了 )

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