山下佳恵詩集『あなたへ』


マッチ売りの少女


大人になってから読めなくなったよ
マッチ売りの少女の物語
最後まで読もうと思っても
涙でぐちゃぐちゃになって 見えないんだ文字が
その続きを 聞いていた子どもが語るんだ
たんたんと 最後まで 涙もみせず

雪の中
降りしきる雪の中
はだしで歩きマッチを売っていた少女
売れるまで 家に帰ることも許されず
必死にマッチを売って歩く
暖かい家の中に憧れながら
暖かい食事に憧れながら
擦ったのは 一本のマッチ

今は売るものは違っても
ゴミの山をあさって
危険と隣り合わせで生きていく子どもたち
時代は変わっても
マッチ売りの少女は なくならない
マッチ売りの少女の物語は 終わらない

暖かい布団の中
サンタさんを待ちながら
眠れる子どもになってくれたらいい
ぐっすり眠れる
そんな子どもたちになってほしい
大人になってから そんな事を思い
涙するよ
この幸せが続いてほしいと
どの親も同じだと
クリスマスイブに思うよ
明日の心配なんかすることのない
悲しい思いをすることのない子どもになってと
サンタさんが もしいるのなら
その子のそばにきてほしいと
マッチ売りの少女の物語が 遠い昔話で
語られる日になってほしい と


「 マッチ売りの少女 」( 了 )

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