山下佳恵詩集『あなたへ』


段ボールの猫


自転車の荷台に括りつけられた段ボール
ゆっくり自転車を引きながら
おばあさんは 言う

お前がいると 怖い人がきて
大変なことになるからね
もう 戻ってくるんじゃないんだよ

呟くように
諭すように
何度も 何度もおばあさんは言う
おばあさんの足元に伸びた
長い影を確かめるように引きながら

段ボールの中に入っているはずの
猫の鳴き声は聞こえない
聞きとれない

人目を避けるように 都会の空地で
数匹の猫が集会を開いていた
段ボールの中の猫は 元居た場所に戻ってくることができたのだろうか?

野良猫に餌をやることを禁止します

手書きで書かれた立て札のすぐそばで
数匹の猫は集っていた

猫は自分の足元に伸びる長い影を
仲間の猫の影に重ねながら
何かを訴えるように静かに静かに鳴いていた


「 段ボールの猫 」( 了 )

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