山下佳恵詩集『あなたへ』


追悼


いま 死んでしまったら きっと後悔するよ

その言葉が あなたとの最後の会話になった

そのうち いいこと あるよ
気休めにしかならない言葉で別れたのは
沈丁花の花の香りがまだ残る頃だった

あなたは いつも人のことばかり心配していた
話しを聞くことしかできなかったけど
苦労続きの人生だった

突然 激しい頭痛に襲われ
春嵐にさらわれるように
この世を去った

珈琲からたちのぼる湯気のむこうで
時折涙をこらえながら話していたあなたが いまは
線香からたちのぼる煙のむこうで
何事もなかったかのように
ただ やさしく 微笑んでいる

楽しい人生を送ってほしかった
幸せな人生を送ってほしかった
後悔するような人生を送ってほしくなかった

春嵐に負けずに
残って咲いているような桜の花に
なってほしいと願っていた

あの世で いいことはありましたか?
桜の花は 小さな実をむすびました



「 追悼 」( 了 )

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