山下佳恵詩集『あなたへ』


忘れられない言葉


忘れられない言葉がある
耳にタコが出来るくらいに聞かされたその言葉
幼いころ父の言っていた言葉
海に行く時の注意事項

九十九里の海には 「みお」と呼ばれる離岸流が発生する
潮の流れが激しく
毎年何人かは海で亡くなっている

「 みお 」はいつも同じところにあるとは限らない
こういう場所に あるみたいだ とは繰り返し聞かされた
神社の下の方の海には大抵「みお」がある
大きい神社の下の海には大きな「みお」がある という

万が一「 みお 」に流されてしまったら
落ち着いて
流れに逆らうな
体力を温存してそのまま泳ぎ
流れがちょっと緩んだとき一気にそこから泳ぎされ と
繰り返し聞かされた 

九十九里の海は遠浅で
陸に近い海の色は黒い色を含んだインディゴブルー
沖の色はコバルトブルー
海の色が変わるところまで連れていかれても
渦がみえても
決してあわてるな
自然は甘く見てはいけない と

キラキラと太陽の光を反射して輝く海
寄せては返す波
心を癒してくれる海は
突然牙をむいてくるものでもあった

流れが急な時は逆らうな
流れが緩んだ時に一気にそこから泳ぎされ

忘れられない言葉がある
忘れられない言葉の中に伝えていきたい思いがある



「 忘れられない言葉 」( 了 )

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