山下佳恵詩集『あなたへ』


蟻蜘蛛物語


ゆうゆうと糸を垂れて地面に降りていきました
おしりから糸を垂れて地面に降りた蟻のような蜘蛛
蟻蜘蛛という存在を知った瞬間でした

なぜ 私はこんな姿になってしまったのでしょう
正面から見れば 間違いなく蜘蛛の顔です
でも体は どうみても蟻に見えます
ただ 私は あなたを見ていたかっただけなのです
憧れていたあなたに近づきたかっただけなのです

もくもくと働いているあなたの姿を見るのが好きでした
蟻は働き者と言われていますが
全部がそうでないことを 私は知っています
とても暑い夏の日
一生懸命働いているあなたを 私はいつも見ていました
玉のように丸まった朝露が
葉っぱの上で煌めき その水を飲んでいたあなたは
まるで宝石を作りだす魔法使いのようでした

魔法にかけられたのででしょうか
私の八本の足の第一脚は
あなたの触角にそっくりに変化しました
八本あった脚は六本の脚に見えます

私は嬉しくなって飛び跳ねました
飛び跳ねながら
まだ あなたと違うところがあることを実感するのです
そして私は木の葉の裏で眠り
土の中で眠るあなたを思います

魔法はいつまで続くのでしょうか
叶うことのない恋でした
私は仲間と結婚し子どもが生まれましたが
私とよく似た子どもが生まれました

私の子どもたちがこの姿になったのは
あなたたちに近づいて安心させて捕獲しようと思ったのか
あなたたちにそっくりにまねて その身を守ろうとしたのか
地面の一部となってしまった私にはもう
何もわかりません
ただ
糸を垂れて地面に降りていくような蟻を見たら
蟻に恋してしまった
愚かな蜘蛛の物語を思い出して欲しいのです



「 蟻蜘蛛物語 」( 了 )

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