山下佳恵詩集『あなたへ』


立ちどまって


立ちどまって
ちょっと立ちどまって まわりをみる
人の波が川のように流れる
せかせかと歩く靴音
同じリズムをきざんでいる
道行く人の顔は皆忙しい
人にぶつかっても何もいわず走りさる人
早く来なさいとどなる母親
人の波をぬって歩くのは難しい
走るたびに時間は短くなるけれど
何かが音をたてて崩れていく

立ちどまって
ちょっと立ちどまって まわりをみる
自分だけとりのこされたような空間
他人は目もくれず
何もみないふりして通りすぎる
ぽっかりとあいた空間
そこだけ違う空気がよどむ
人をおしのけてでも得た時間
おとしてきてしまった大事なもの
立ちどまって
ちょっとだけ
立ちどまって
まわりをみて


「 立ちどまって 」( 了 )

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