山下佳恵詩集『あなたへ』


木へん


春はつばき 寒い時期に咲きほこり鳥に花粉を託す花
夏はえのき 昔は神木 道しるべ
秋はひさぎ アカメガシワかキササゲか
冬はひいらぎ ひりひり痛む棘の傷
するどく痛い棘の葉は老いてくれば丸くなる
白い小花が甘く漂う

万はとち 栗によくにた実を結ぶ
兆はもも 色名にもなった花の色
邪気を払って吉兆の
きざしとどうかなりますように

樂 門 象 羽 国 並 到
たくさんの漢字を持つ くぬぎ
くぬぎは虫の集まる木
レストランや音楽会 森のなかの社交界

妻は ねぐらに宿りすみ
夫は かたわらにはびこる

西にすみかを探し
東にむねを建て
南にくすのきを植える
北には何をもとめるのだろう

木は
大地にしっかり根をはって
空にむかってのびていく
なにも言わずにじっとみまもり
内側に事実を刻んでいく



「 木へん 」( 了 )

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