山下佳恵詩集『あなたへ』


コブハサミムシのお母さん


物陰に隠れていることが多くて
おしりにハサミをもっている
怖い虫と見られているけれど
コブハサミムシのお母さんは
子煩悩なお母さん
寒い冬に産卵し
子育て期間中はなにも食べない
懸命に卵の世話をする

こんな湿ったところにいるのだから
卵はきれいになめてあげようね
割れやすいからそっと扱わなくてはね

誰にもほめられないのに
せっせとひとりで世話をする

卵の殻をやぶってようやく生まれた
コブハサミムシの赤ちゃん
誕生を喜ぶお母さんの嬉しさは
長くは続かない
なにも食べずに頑張って
世話をしてくれたお母さんの体を
子どもたちは食べ始める
自らの体を捧げるお母さん
食べおえた子どもたちは
その場所から巣立ち散っていく

タガメのメスは卵を産んでもオス任せ
オスがひとりで必死に守る
昆虫界で少なくなってきたタガメは
人間社会に進出して
タガメ女 として増殖中だという

コブハサミムシのお母さんと
タガメのお母さん
幸せなのはどちらだろう



「 コブハサミムシのお母さん 」( 了 )

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