山下佳恵詩集『あなたへ』


冷蔵庫の中の話


そう これは冷蔵庫の中の話

冷蔵庫に耳をあてて
そしてすまして聞いてごらん
ほら 啜り泣く誰かの声が聞こえませんか

賞味期限のきれたハム ちくわ
しわしわに萎びた野菜や
固く変色してしまった肉が
私たちは 貴方たちに食べられるために
自らの命を絶ったのに
こんなふうに捨てられるのは情けない
冷蔵庫の中は涙でいっぱいになった

満足な食べ物もなく
痩せ細り飢えて死んでいく人々
物が余りすぎて腐らせて捨ててしまう人々
同じ地球の上で
同じ人間だというのに

過剰な物の上に胡坐をかいてしまった人間を
冷蔵庫の中の物たちは
次に腐るのは誰かと
ヒソヒソ話を始める


「 冷蔵庫の中の話 」( 了 )

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