山下佳恵詩集『あなたへ』


いずれツバメかカキツバタ


のみこまれそうな広い海を
海面すれすれに飛んで
南の国から渡ってくるツバメ

巣をつくり
雛がうまれ
親鳥は
雨が降り 風が吹いても
餌をとり 運び 食べさせる

大切に大切に育てた雛
あるツバメの親は
子を愛するあまり
巣立ちのときがきても
かわいい子になにかあっては大変と飛び方も教えず
せっせと餌を運び続けた

色づいた葉がはらはらと散る
仲間がいなくなった空を
親鳥は餌を探して飛びまわり
子育ての間違いに気づいたころ

自分から飛ぼうとする時期を逃してしまった子は
もう 飛ばない

飛ばないツバメ

愛情と過保護は背中あわせ
気がついたときは あとのまつり

はちきれそうな燕尾服
親より大きく育った子たちが
いつまでも
大きな口をあけ 餌をねだる

冬に南の国へ帰れなかったツバメは
カキツバタに姿を変えた

池のそばで咲きながら
飛びこすことのなくなった 海をおもう



「 いずれツバメかカキツバタ 」( 了 )

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