山下佳恵詩集『あなたへ』


スズカケノキのひとり言


私は街路樹 スズカケノキ
道路脇に植えられて数十年
自動車から出る排気ガスに耐え
傍らを通り過ぎていく人や車を毎日見ている

最近はほほえましい場面が減り
ひやひやと危ないことが増えているように思う

スマホの画面ばかり見て歩いている人たち

赤信号で止まっている自動車の脇から
飛び出してくる自転車
横断歩道を渡ろうとしている人の波に直進する
ぶつかってもあやまることなく
気づかないふりをして走りさる

人を縫うように音もなく
高速で走り抜けていく自転車で
ゆっくり歩けなくなった歩道
イヤホンをつけている若い人の顔は無表情
どこを見ているのか
一点だけを見つめるように過ぎていく
聴いている音楽はどう心に響くのだろう

そして近頃多くなったゲリラ豪雨が
私の根本に奇妙な花を咲かせる
バラバラに折れ曲がったビニール傘の残骸の骨の花
豪雨になればなるほど増殖する骨の花のブーケ

雨に濡れないように
守るために作られたものが
役にたたないと使い捨てにされ凶器にかわる
簡単に捨てられていくものたちの末路はいたましい

無表情な若い人はどう年をとっていくだろう
奇妙なことはますます増えていくだろう
私はあと何十年
排気ガスに耐えながら
変わりゆく街と人を見つめていくのだろうか



「 スズカケノキのひとり言 」( 了 )

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