山下佳恵詩集『あなたへ』


釣堀の魚


釣堀の
水面にうつる
青空は
鶯色
ゆうら ゆうら
揺れるビルの間に
ウキが水平にささっている

ピクン

水中にひきずりこまれた ウキが
ビルの姿をかき消す
尾ひれが激しい水しぶきをあげ
大きくしなった竿が
魚を釣り上げる

口元に刺さった針を
飲み込んでしまった針を切って
また釣堀のなかに戻される 魚
痛くはないのだろうか
苦しくはないのだろうか
魚には痛点がないから痛くない と
言われているけれど

アスファルトから
たちのぼる かげろう
白く濁った青い空

 コッカイマエハ
 ツリボリノ ヨウ
 テツノサクニ
 ケイカンノ サク
 コウギスル ヒトビトヲ
 マワラセル
 アヤマッタエサハ
 タベルコトハデキナイ
 ワタシタチハ
 クルシミヤ
 カナシミヲ
 カンジルコトガデキル

記録的な暑さをぬりかえた夏に
大人しくしていた人たちがたちあがった夏
私達は釣堀の魚ではない
針を飲み込んでしまう前に
行動を起こさなくては と




「 釣堀の魚 」( 了 )

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