山下佳恵詩集『あなたへ』


カラスの恋人


今日もカラスはやってきて
2階のガラス窓をたたく
カツン
カツン
クチバシから窓に体当たりする

カラスが窓に飛んでくると
家のなかのカラスも
大きく翼をひろげて待っている
同じように顔を近づけてきて
ここから出してと言っている
そんな家のなかのカラスが
いじらしくて 愛おしい

二羽の仲を引き裂くガラス窓
なんど窓をたたいても
びくともしない

たまらないほど せつなくて
たまらないほど やるせない

地面は散らばった赤い血と黒い羽を
やさしく受け止める

今日もカラスは窓をたたく

カラスが恋してしまったのは
ガラスにうつった自分自身




「 カラスの恋人 」( 了 )

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