山下佳恵詩集『あなたへ』


浜辺の車


ボンネット近くまで砂に埋まった車が一台 寄せてくる波が
その車の上を通りぬけていく
波しぶきが
容赦なく異物を呑みこんでいく
そして そのまま
砂に埋まって
どんどん沈んでしまうのか
どんよりとした雲が
時々光を地上にさしこんで過ぎていく
何百年 何千年かたって
その車が また砂の上に現れるようなことが
あったなら
それを見つめる目は いったい
どんな目なのだろうか


「 浜辺の車 」( 了 )

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