山下佳恵詩集『あなたへ』


 廃屋


少し急なカーブを曲ると
今では珍しい茅葺屋根の家
ひとけのないその家は
たった十年足らずの間に 四人の人が死に
三代も続かずに廃墟となった

ほんの少し前までは
庭を掃く おじいさん
毎日先祖に水や御飯を供える おばあさん
正月前には必ず聞こえる餅つきの音
喜怒哀楽のある普通の家だったのに
今では
風雨にさらされ朽ちた屋根
黒く腐った柱
大きな しっけ虫がまるで自分の家のように
畳の上を歩いていく
裏の竹がサラサラ音をたて
通り過ぎる風が流れていく

形ある物が壊れる運命なら
楽しかったこと
悲しかったこと
さまざまな想いをそれぞれの心に秘め
土にかえそう
来るべき新しい未来のために


「 廃屋 」( 了 )

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